夢幻ダンジョン『第4回』
2019年9月13日~20日
ある日、ナルシアは本棚の隅にひっそりと置かれていた古い書物に目をとめました。
それは、たいへんに遠い昔の物語。
ナルシアはそのお話に惹かれ魅入られるように読んでいました。
※本棚の前で立ったまま読書をするナルシア
ギルダ 「熱心なのはいいけど、夜更かしはするんじゃないよ」
ナルシア 「ええ、わかっているわ」
※去っていくギルダ
ナルシア 「……とても哀しいお話ね。双子の姉妹なのに、離れて暮らさなければならない定めなんて……。この物語に出てくる女の子……どこか、カイに似ているわ」
※カイの姿が浮かび上がる
ナルシア 「カイ……もう一人の私。あっ、続きは明日にして、もう眠らなくちゃ」
カイ 「……あれ?私、どうしてこんな所にいるんだろう?」
カイの姿をしたナルシア 「それに……。なんでカイの姿なのかな?(もしかすると、ここは……夢の中なのかな)そうだ、黄金の鍵でもとの姿に戻ろう。あれ黄金の鍵が使えない?どうしてなの……?」
カイの声 《ナルシア。ナルシアってば──》
カイの姿をしたナルシア 「え……?その声は……カイ?」
カイの声 《そうだよ。ねえ……ナルシア。覚えてる?はじめて黄金の鍵を使った時のこと》
~ギルダの館 8年前~
ギルダ 「それは「黄金の鍵」さ」
ナルシア 「……黄金の鍵?」
ギルダ 「その鍵をしっかり握ってなりたい姿を思い浮かべてみな。……とりあえずは、人間の女の子の姿だね。私たち森の魔女は、海に落ちたら泡になって溶けちまうから」
※黄金の鍵を使うナルシア
※カイの姿のナルシア
ギルダ (その姿なら、たとえ海に落ちても大丈夫さ。なんたって人間だからね。そうだね、お前に名前をやろう──。その姿をしている時、お前はカイと名乗るんだ)
カイの姿をしたナルシア 「あの時は……。ブリオニアに向かったピエトロが海に落ちて溺れそうになっていた。私はどうしてもピエトロを助けたかった。だから、必死で女の子の姿を思い浮かべたの。ピエトロを助けるために……。そうしたら、カイ……あなたが心にうかんで私はカイになった。もう一人の私の姿……」
もう一人の私──。
黄金の鍵で出逢ったカイをナルシアはいつしかそう想うようになりました。
それは姉妹の絆にも似たそんな結びつきだったのです。
~ギルダの館~
ナルシア 「それでね、カイと話す時のピエトロ王子って面白いの」
ギルダ 「……やれやれ、カイはお前の事じゃないか」
ナルシア 「だけどカイは……。どうしても自分とは別の女の子のように思ってしまうの。性格だって私と正反対なんだもの」
ギルダ 「まあ仕方ないか。黄金の鍵のなせる業ってとこなんだろうね」
ナルシア 「そういえば姉さんはどうして「カイ」って名前をつけたの?
ギルダ 「え?……それは……その……お前が変身した姿を見てなんとなく……。そう、なんとなく思いついたのさ」
ナルシア 「そうなのね」
ギルダ 「「ナルシア」も「カイ」も遠い昔に使われていた妖精の言葉。おっと、お喋りがすぎたね。さてと、休むとするかね」
カイの声 《ナルシア、私たちの名前にはそれぞれの意味があるの。それは愛されて生まれた証。私たち、新しい命への祝福なんだ、きっと》
ナルシアの心の中に語りかけるカイ──。
 その存在はとても優しくナルシアの心を満たしていくのでした。
カイの声 《……私はね、ナルシア。ナルシアが初めて黄金の鍵で変身した時に──。私のことを思い出してくれて嬉しかったよ》
カイの姿をしたナルシア 「……カイ」
カイの声 《不思議だね、ナルシア。私……遠い昔にこうしてナルシアと話していたような気がするの。ずっと……ずっと昔に》
あの日──。
 黄金の鍵を使ったその時からナルシアとカイの運命は結ばれました。
 それは、まるで姉妹のように──。
カイの姿をしたナルシア 「カイ……私は……。ピエトロを助けたかったから黄金の鍵を使ってカイの姿になった──。ずっとそう思っていた。だけどあの時、私はカイのことを思い出していたのね。今まで気づけなくて……ごめんなさい……」
カイの声 《そんなことないと、ナルシア。謝らなくていい。私はここにいるんだから!さあナルシア、黄金の鍵に念じて。きっと使えるはずだよ。大好きなナルシア。もう一人の私……》
~ギルダの館~
ギルダ 「おや?どうしたんだい?」
ナルシア 「……ギルダ姉さん。昨日私が読んでいた本を知らない?」
ギルダ 「あ、ああ──あれかい?あの本、実は借り物でね。持ち主に返しちまったよ」
ナルシア 「そう……」
ギルダ 「それより、今日は忙しいんだからね。ぼーとしてるんじゃないよ!
ナルシア 「はい!」
ギルダ (この話の結末をあの子に読ませるのは、まだ早いかもね……)
※窓の外を眺めるギルダ
ギルダ (そうだろう?メディア……)
夢幻世界──。
いつかまた、その場所へ繋がることがあるかもしれません。
誰かが眠るその時に。

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